◆Yuzo Gallery Top  ◆2011

 

with 敬明

2011/3/26
 
 

    1部

歌いながら夜を往け
スイートホームKYOTO
海の人
センシミーナ
背中
大文字
再会


         2部

京言葉 さんづくし
早川豆腐店のバラード
好きなもの
ザ・パラドックス(ダライラマの詩)
虹の歌
瓦屋根続く細い道 


 アンコール 

それで十分
満月  


 


 

私にできることは何か…それをずっと考えている。

「こんな時だからこそ私たちが元気を出して被災している人を励まさなきゃ…」という
被災していない地でよく耳にする言葉が
その気持ちに重苦しく覆いかぶさってくる。

出さなきゃ、出さなきゃ、元気を出さなきゃ…

あの時からしばらく、絶え間なく写しだされる現地の様子に
テレビのスイッチが切れなかった。
切るタイミングを失った。
そして、やっと切ったあとも眠れなかった。

テレビの向こうの被災した人たちは
明るく装っていても、突然嗚咽し始める。
悲しみと感謝の気持ちで、本当に紙一重の精神状態でおられ
思いがあふれそうになっているのがわかる。

映像でしか見ていない私もまた、気が晴れない。
寝つきの悪い日が続いた。

でも、元気ださなきゃ、私たちが頑張らなきゃ…

そんな言葉が私を追いかけてくる。
そうだそうだ、と無理に顔をあげる。
あ〜でもなんかしんどいなぁ…

私たちも、実は無理しているんじゃないだろうかって、ふと思う。


「そこ」まで行けば楽しいのがわかっていても
「そこ」に行くハードルがいつもより高い。


歌舞音曲を自粛する思いは全くないし
むしろ、どんどんやればいいと思っている。
ただ、自分のテンションがそこまであがってこない。
どうにも気持ちが重い。
それが正直なところだ。

ぐずぐずした思いでいたその日、知り合いから大根をたくさんもらった。
それは、規格外で売りものにならずに、撥ねられたものばかり。
でも、規格外は総じて元気いっぱいだ。
なんたって、好き放題に育ったんだから…ね。
それが勢いになっている。
すぐに大根おろしにして食べてみると、瑞々しくておいしい。
その辛さに目が覚めた。
大根の生命力が跳ねかえってきた。

この大根、大石さんとヒバリさんに持っていこ!

命あるものを抱えると元気になるのは私だけだろうか。
大根を抱えて、ひたひたと相国寺に向かう。
ぎりぎりの時間だったので、お馴染みさんたちはすでに腰かけていた。
その整然とした様子に、和やかだけれど緊張したような空気が感じとれる。
みんな同じ思いなんだろうな…

タイから日本の状況を心配しておられたという勇造さん。
タイ帰り一番の恒例となっているH&Kでのライブも
今年は内心いろいろ思われただろうけれど
敢えて連絡せずにこの日を迎えられたという。
それは主催されている小川先生&大石さんとの信頼関係によるものだ。
思いはきっと同じだという確信。
当たり前に淡々とやる…予定通り、待っているファンのために…
その思いをしーんとしながら聞いた。

勇造さんの唄を聴いて元気になりたいと思う人は多い。
こんな時だからこそ、勇造さんの唄を聴きたいと思う人は多い。
でも、改めて思う。
この会場で彼の地に一番知り合いが多く
彼の地で一番思い出の多いのは
他でもない勇造さんではないだろうか。
悲しみが一番深いのは勇造さんなのだ。
その当人に元気づけてくださいと、私は言えない。
それは痛々しい。
むしろ私たちが元気づけてあげたいけれど
残念ながらその力がない。
この場に来るだけで今は精一杯だったことを、申し訳なくも思う。

歌いながら夜を往けでライブが始まった。
いつもなら、きゃっ!きゃっ!と喜ぶ私も
どうにも顔があげられない。
勇造さんの辛そうな顔を見るにつけ、目を合わすことができない。
あの人のことを思って歌われた「背中」「大文字」…
一度だけお会いした微かな記憶が蘇り、胸に堪えた。
辛さ、悔しさが伝わってくる。
それでも勇造さんはなんとか元気づけようとされているのがわかる。
悲しい気持ちの中で笑うって、こういうことなんかなって思いながら
その様子を見る。
悲しいことは悲しい。でも…って思い。



ケイメイさんが飛び入りで参加された。
おどけてみんなを笑わせる。
その心遣いが嬉しい。
勇造さんの顔もほころんでくる。
それを見ている私も、少しずつ顔をあげられるようになった。

繋がっている。

2部は新しい曲を何曲が歌ってくださった。
それはとてもお茶目だったりして、私の気持ちもどんどん晴れていく。
そして、知らぬ間に、いつも通りにケラケラと笑う私がいた。
会場がゆっくり癒し癒されていく。

繋がっている。

思うことはいっぱいある。
でも、被災地の状況を考えると、長い長い辛抱が要りそうだ。
長いスパンで彼の地のことを思い続けることが
一番必要なんじゃないかと思う。

繋がっていることを忘れないこと。
繋がっていることを彼の地の人たちに届けたい。

勇造さんには、いつものように
「や〜や〜や〜今年も来たで!」とライブに行ってもらえたら
それだけでみんな嬉しいんやないかな。
歌うことで勇造さんにも元気になってもらいたいし
繋がっていることで聴きに来た人にも元気が届くといいなと思う。


元気は出したいけど、出せない時もある。
無理せずに、自分の中の治癒力を信じたい。
まずは当たり前のこと、自分にできることを淡々とやって、それぞれが力を蓄えていたら
その内、一歩が踏み出せるかもしれない。
そんな風にできたらいいなと思いながら、長い一日を終えた。


生きていることだけは確か。
それを抱えて歩いていこう。

 
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